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研究成果

味覚の地域差:アジア人はコーヒーの苦味を弱く感じる?

Effects of the genetic polymorphisms of TAS2R43 and TAS2R46 on receptors’ function and on perceived bitterness of caffeine by human subjects

25/9/18

地域による苦味受容体TAS2R43とTAS2R46の遺伝子型の違い

背景
コーヒーやお茶は苦いのにもかかわらず、世界各地で嗜好品として用いられています。例えばコーヒーにはカフェインをはじめとする複数の苦味物質が含まれていますが、その大半はTAS2R43やTAS2R46と名付けられた苦味受容体で受容されます。ヒトゲノム計画(注1)により、これらの遺伝子には変異(注2)があり、地域によってその変異の割合も異なる事が示唆されていましたが、その影響については未知でした。

研究成果
当センターで研究を行っていた沼部令奈さん(2025年3月まで理学研究科博士後期課程)らは、この遺伝子変異の偏りに注目し、受容体の性質と、それらの遺伝子を持つ人たちの苦味感覚を調べました。その結果、以下の結果を得ることができました。
・アフリカに多い祖先型(注3)よりもアジアに多い派生型(注4)の苦味受容体の方が、カフェイン等の苦味物質に対する反応が弱い。
・祖先型の遺伝子を持つ人よりも派生型の遺伝子を持つ人の方が苦味を感じにくい。
すなわち、アジアに多い派生型を持つ人は、カフェインなどの苦味を感じにくいため、苦味を含む嗜好品も受け入れやすいと考えられます。コーヒーもアフリカ発祥ですが、焙煎や抽出は中東に伝わって以降に発展したため、地域によってその味が違うことと関連があるかもしれません。

本成果は、2025年8月23日に日米欧の化学感覚に関する学会の機関誌「Chemical Senses」オンライン版に掲載されました。

(注1)ヒトゲノム計画:ヒトのゲノムDNA全ての配列を決定するプロジェクト。現在では、各地域の偏りや個人差に注目したフェーズに進んでいる。
(注2)(遺伝子)変異:ヒトゲノム計画で特に注目されている変異は一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、通称SNP)で、受容体などの機能に影響を与える。
(注3)祖先型:ヒト集団や非ヒト霊長類と比較してヒトの祖先が持っていたと推定される遺伝子またはタンパク質の配列。TAS2R43の場合は、35番目のアミノ酸がトリプトファン(W)で212番目のアミノ酸がヒスチジン(H)が祖先型と推定される。TAS2R46の場合は228番目のアミノ酸がロイシン(L)が祖先型と推定される。
(注4)派生型:祖先型から変異した遺伝子またはタンパク質のタイプ。TAS2R43の場合は、35番目のアミノ酸がセリン(S)で212番目のアミノ酸がアルギニン(R)が派生型と推定される。TAS2R46の場合は228番目のアミノ酸がメチオニン(M)が派生型と推定される。

Chemical Senses

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