研究成果
ニホンザルらしい下顎骨が成長する仕組みを明らかにしました
Ontogenetic differences in mandibular morphology of two related macaque species and its adaptive implications
22/4/25
豊田直人 理学研究科生物科学専攻修士課程大学院生、西村剛 ヒト行動進化研究センター准教授(旧霊長類研究所准教授)、伊藤毅 総合博物館助教(旧霊長類研究所助教)らは、ニホンザルと東南アジアに生息するカニクイザルの下顎骨の成長変化を比較して、樹皮など硬いものも食べるニホンザルに特有の形態がどのように成長、形成されるのかを明らかにしました。研究成果は、米国解剖学会の機関誌であるAnatomical Recordに掲載されました。
長い吻と大きな犬歯をもつヒヒの仲間から、短い吻と小さな犬歯を持つ我々ヒトまで、霊長類の顔のかたちは多様性に満ちあふれています。しかし、そんなサル類でも、赤ちゃんは、私たちヒトの赤ちゃんと似ています。これらの種間の違いは、生まれてから成長していく過程でどんどん大きくなっていきます。ニホンザルやヒヒを含むグループは、顔のかたちの多様性が高いので、その種間差ができる仕組みを調べる良いモデルとして多くの研究がありました。それらの研究から、サル類の一般的なパターンとして、体が大きくなると、吻が長くなるという法則が知られています。しかし、その法則のみでは、ニホンザルの成体にみられる顔や下顎の特徴を説明できませんでした。
そこで、本研究では、幾何学的形態計測法(GM)という数理的手法を駆使して、ニホンザルの下顎骨の成長パターンを近縁種であるカニクイザルのものと比較して、ニホンザルらしい下顎のかたちが成長する仕組みを明らかにしました。つまり、ニホンザルは硬い食べ物も食べられるよう頑丈な下顎骨をもっていますが、その成体(大人)の頑丈な形状は、それが必要となる離乳期にさしかかる頃までの間に、サル類一般にみられる成長パターンとは別の成長の仕組みがはたらいて形成されることを見出しました。
本研究成果は、霊長類の顔のかたちの多様性をうむ成長の仕組みに関する新しい視点を提供しています。顔の個々のパーツのかたちが、それぞれ必要とされる成長段階ごとに、異なる成長の仕組みによって形成されること、そして、一般的なパターンとは別にそれら個々の成長の仕組みに対して淘汰がかかって、多様なかたちが進化することを示唆しました。成体だけ見ていては進化の仕組みはわからないでしょう。成長パターンの比較は、進化の仕組みを明らかにする重要なアプローチといえます。
Toyoda N, Ito T, Sato T & Nishimura T. (2022) Ontogenetic differences in mandibular morphology of two related macaque species and its adaptive implications. Anatomical Record.